これからの人生を豊かにする「生前整理」:目的、メリット・デメリット、そして具体的な進め方

★終活のアレコレ

「終活」という言葉が広まり、ご自身の死後について考える方が増えていますが、身の回りの物を整理する「生前整理」は、往々にして後回しにされがちです。しかし、生前整理は、ご自身が亡くなった後に遺族へ迷惑をかけないよう、生きているうちに自分の持ち物や財産を整理することを指し、安心して老後を過ごすために非常に重要な活動です。

生前整理と似た言葉に「遺品整理」がありますが、これは亡くなった後に遺族が身の回りの物や財産を整理することを指し、生前整理とは「誰がいつ行うのか」という点で異なります。また、「老前整理」も生前に身の回りを整理することですが、これは若いうちから自身の老後を快適に過ごすための整理であり、生前整理が「家族の遺品整理の負担軽減」を主な目的としている点で違いがあります。

今回は、生前整理の多岐にわたるメリットと、見過ごされがちなデメリット、そして具体的な進め方について詳しく解説します。


生前整理の5つのメリット

生前整理を行うことで、終活として以下の5つの大きなメリットが得られます。

  1. 遺品整理の負担を軽減できる ご自身が亡くなった後、遺族はどこに何がどのくらいあるか全く分からない状態から遺品整理を始めることになります。これには多大な労力と時間がかかり、特に離れて暮らしている家族にとっては大きな負担となり、全てを整理しきれないことも珍しくありません。生前に不要な物を処分し、必要な物だけにしておくことで、この遺族の負担を大幅に軽減できます。
  2. 相続トラブルを避けられる 相続手続きを進める上で、まず相続対象となる全ての財産を明確にする必要があります。生前に財産が整理されていないと、相続財産の内容に漏れが生じる可能性があり、後から新たな財産が見つかることで遺産分割のやり直しが生じ、遺族間のトラブルの原因となることがあります。生前整理を通じて「重要書類や必要書類の保管場所」を明らかにし、「誰に相続してほしいか」を遺言書などで明確に記しておくことで、相続の手間を省き、トラブルを防ぐことができます。
  3. 部屋が快適になる 不要な物を処分し、身の回りの物を必要最小限にすることで、室内がすっきりとして広く使えるようになります。この状態を保ちたいという意識が働き、余計な物を買わなくなる傾向もあります。また、部屋が整理されることは頭の中の整理にも繋がり、気持ちが前向きになる効果も期待できます。
  4. もしもの時に備えられる 生前整理は、急な病気やケガによる入院、あるいは認知症による施設入居など、予期せぬ事態に直面した際にも役立ちます。病院や施設の手続きに必要な書類などをまとめてすぐに取り出せる場所に保管しておくことで、手続きを迅速かつスムーズに進めることができ、もしもの時にお世話をしてくれる人の負担も軽減できます。
  5. 大切な物を確実に引き継げる ご自身が大切にしていて、家族に引き継いでもらいたい物がある場合、生前整理の際に仕分けしておくことで、不用品に紛れて処分されることを防げます。特に趣味のコレクションや思い出の品などは、他の人から見ると価値が分かりにくいことが多いため、意図せず処分されてしまうリスクを回避できます。

生前整理の2つのデメリット

多くのメリットがある一方で、生前整理には以下の2つのデメリットも存在します。

  1. 時間と労力がかかる 生前整理は1日や2日で終わるような作業ではありません。資産の明確化とリスト化だけでも大変ですが、長年溜め込んだ身の回りの物を仕分けし、不要な物を処分し、残したい物を片付ける作業には、相当な時間と体力が必要です。日常生活を送りながらこれらを並行して行うのは簡単なことではありません。
  2. 費用がかかる場合がある 不要と判断した粗大ごみや家電製品などは、処分に費用が発生します。また、ご自身だけでは生前整理が困難で専門業者に作業を依頼する場合、当然ながらその費用がかかります。ただし、作業量が多い場合には専門業者に依頼した方が費用対効果が高いことも多いため、事前に複数社の見積もりを取ることをお勧めします。

生前整理の具体的な進め方

生前整理は、主に以下の3つの手順で進めることができます。

  1. 仕分けと処分 生前整理は、不用品の仕分けと処分から始めます。以下の4つのカテゴリーに分けて、不要な物を仕分けし、処分を進めていきましょう。
    • 身の回り品: 家具、家電製品、書籍、衣類、食器類など、使わずに家の中で眠っている物が対象です。物を捨てるのが苦手な方は多いですが、「あると便利だから」「そのうち使うから」といった理由で保管し、結局使わないままになっていることが多いものです。そこで、「何年使っていなかったら処分する」といった自分なりのルールを決めることが有効です。一気に全ての仕分けを行うのは大変なため、日を分けて計画的に進めるのが良いでしょう。不要品の中には中古品として買い取ってもらえる物もあるため、まとめて査定してもらうことも検討してみてください。
    • 資産に関するもの: 利用していない銀行口座やカード類は、本人以外が手続きをするのが大変なため、早めに解約しておくことが推奨されます。また、不動産や有価証券などに関わる重要書類は、種類ごとにファイリングしてまとめておきましょう。
    • デジタルデータ類: パソコンやスマートフォン内の不要なデータは、機器の性能低下に繋がることもあるため、こまめに消去しましょう。あまり利用していないデジタルサービスやサブスクリプションも、この機会に解約を検討しましょう。人に見られたくないデータがある場合は、一定期間起動しなかった場合に自動的にファイルを消去するソフトなどの利用も検討できます。
    • 趣味の物、思い出のある物: 趣味のコレクションや思い出の写真、手紙などは処分に悩みがちです。最近では、本当に残しておきたい物以外はデジタル化してデータで保存し、実物を廃棄するケースも増えています。データに残すのが難しい大切なコレクションで、どうしても残したい物がある場合は、生活の邪魔にならないことを条件に家族の許可を得るか、トランクルームなどの自宅外の保管場所を借りるか、家族と話し合って最適な選択肢を見つけることが重要です。
  2. 整理をする 不用品を処分した後は、残す物を使いやすく整理します。
    • 身の回り品: 日常生活でよく使う優先順位の高い物は、引き出しやクローゼットの奥にしまわず、取り出しやすい場所へ置くのがおすすめです。また、高い場所からの転落や地震による落下のリスクを避けるため、物はなるべく手の届く低い場所に置くようにしましょう。
    • 資産に関する物: 通帳やカードなどお金に関する物は、盗難リスクがあるため、自宅の金庫へ保管するのが最も安心です。泥棒は隠し場所の心理を理解しているため、分かりづらい場所に隠したつもりでも見つかってしまう可能性が高いです。また、複雑な場所に隠すと、いざという時に見つけるのに苦労することもあります。不動産や有価証券などの重要書類も金庫での保管が推奨されますが、普段使用しない書類であれば、セキュリティの万全な貸金庫などを利用し、自宅に置かないという選択肢もあります。
    • 趣味の物・思い出の物: 趣味で集めたコレクションや思い出深い物は、インテリアとして見せる収納を考えるのがおすすめです。好きな物を目に見える場所に置くことで、生活空間が充実し、「老後を楽しく過ごそう」という気持ちに繋がります。ただし、日常生活を妨げない収納方法を第一に考えましょう。
  3. 記録を残す 仕分けと整理が終わったら、最後に記録を残すことが重要です。これにより、死後に家族が遺品整理をしやすくなり、家族間での相続トラブルを回避し、家族へご自身の想いを伝えることができます。
    • エンディングノート: 本人の死後について要望や想いを書き記し、記録を残しておくのがエンディングノートです。遺品の扱い方や財産の継承についても記すことができます。
    • 遺言書: 相続に関しては、エンディングノートに記載しても法的な効力はありません。そのため、遺産分割をして財産を継承したい場合は、遺言書を作成する必要があります。生前整理で身の回りを整理することで、保有財産を整理する時間と気持ちの余裕ができ、遺言書の作成がスムーズになります。

生前整理を始めるのに最適な時期

生前整理は、いつから始めても良いものですが、以下の時期は特におすすめとされています。

  1. 思い立った時 生前整理は、どのタイミングから始めても良いものですが、人はいつ体調を崩し、動けなくなるか分かりません。そのため、思い立ったらすぐに始めるのが最も良いでしょう。何を残し、何を捨てるかの判断はご自身にしかできませんので、体が自由に動き、気力があるうちに取り組むことを強くお勧めします。
  2. 子どもが家を出た時 進学、就職、結婚などで子どもが家を出て部屋が空いたタイミングは、整理した物を置く新たなスペースができるため、生前整理に取り組む良い機会となります。ご自身の死後、葬儀や事務手続きで心身ともに疲弊している状況で遺品整理まで行うことは、子どもにとって大きな負担となります。生前整理をしておくことで遺品整理に取り組みやすい環境を作ることは、家族の負担を少しでも和らげるために非常に大切です。
  3. 定年退職した時 生前整理にはまとまった時間が必要になります。そのため、自由に時間が取れるようになる定年退職後は、生前整理をスタートするのに良いタイミングです。仕事に追われることなく、集中して生前整理に取り組むことができるでしょう。

豊かな人生のための「きっかけ作り」

生前整理は、単に物を減らす作業に留まりません。ご自身の身の回りのことや、これまでに積み重ねてきたことを振り返り、整理することで、残りの人生をより充実させていくための重要な活動です。この取り組みを通じて、これからどのように生きていくかを考える大切なきっかけにしてみてはいかがでしょうか。


コメント

タイトルとURLをコピーしました